A private talk




「ホモなのかしら?」

 笑師はぶはっと、無限城城下名物タピオカココナッツを吹き出した。
 久しぶりの愛おしい朔羅さんとのデートやわ〜(といっても無限城の城下だけど)と夢心地に浮かれていた気分が一気に急降下した。
 今、聞き捨てならないものを聞いた。
 隣りを歩く、見目麗しい、‘やまとなでしこ‘から最も遠い単語を聞いた。

「わっ、わてのことでっか?」

 ポタポタとサングラスからココナッツを垂らしながら尋ねる。
 士度や亜紋と夫婦ネタをやっていたのがいけなかったのだろうか。あれはただのネタなのに!あぁ朔羅はんにこんな事疑われるくらいだったら、やるんじゃなかった!!
 真剣に悔やむ笑師に朔羅は、彼の白いココナッツまみれの顔をハンカチで拭いてやりながら、ゆるく頭を振った。

「というより、男性全員に対してね。男の方って皆ベースに、同性愛の遺伝子があるんじゃないかしら」

「またとんでもないことを言いますな…!」

 ――このおなごは!!
 朔羅のとんでも発言に、頭をかきむしりながら、笑師はふと思いあたる。

「もしかして、もしかしなくても朔羅はん十兵衛はんと花月はんを見て思ってるとちゃうん?」

 朔羅は微笑して、目で近くの階段に座ろうと促す。
 笑師は人気の無い階段にどこいっしょと座り、朔羅は自分の頭に巻いていた布を階段に敷いてから座った。


 朔羅は目を細めて幼い頃を述懐し始めた。それは新生VOLTS前から知り合いだった笑師も初めて聞く話だった。





「私に戦いの才はなかった。型どおり筧の娘として小姫筧流は皆伝まで納めたものの、実践での一瞬の判断力、行動力は、二歳年下の弟にも劣っていた。一方で弟は幼い頃から私を凌駕する戦いの才を見せていたの。まだ覚えているわ。十兵衛と初めて手合わせした時のこと、あぁこの弟は私なんてすぐ追い越すだろうってすぐわかった。事実十兵衛はわすが十の歳を数える時に筧流皆伝を納めた。当然小姫筧流より筧流の方が技の量が多く、ずっと難易度も高い…。悔しかった。男と女の差が出るとはいえ。女である私は本筋の筧流を学ぶことが許されなかったとはいえ、到底皆伝までは辿り着けないことはわかっていたから。――自分の武家の娘としての立場が揺らいだ気がしたのよ」

「意外と負けず嫌いやからねぇ〜。朔羅はんも」

「そうね。だから昔は一時期すごいお転婆になった時もあったのよ。着物を脱いでズボンをはいたり、花月様と十兵衛の修行に頑張ってついていったりね」

「へぇぇ…――朔羅はんが?」

「あの二人は私の理想だったの。特に女の私より美しく、歴代当主の中でもその才に比するものは無いかもしれないと噂されていた花月様は私の求めるもの全部持っていた。そして出会った時から花月様を主君と仰いだ弟。二人の修行についていっても、あの二人は特別な絆で結ばれていて、私の入り込む隙は無かった。それに――筧の屋敷の中しとやかに暮らしていくことに不満は無かったけど旧家の狭い暮らしに息苦しさをまったく覚えなかったといえば嘘になる。俗世から切り離された世界の中で、自分の居場所はさらに狭い気がしていたの」




そんな自分の考えを、母にはしっかり見抜かれていた。




『朔羅。己の境遇に卑屈になってはいけませんよ。貴方は弟を支え花月様をお守りする役目を担う筧家の唯一の娘。頭を上げ、誇りを持ちなさい』




「誇りなら最初から持っていたの。けれど、どうしてもあの二人が羨ましかった。あの二人は完全に世界を共有していた。彼らには私には二人の考えを察することは出来ても、わかることは出来なかった。――私と同じように俊樹もあの二人に疎外感を感じていたようだけど、私からすれば風雅の幹部の中で一番枠の外にいたのは私だったと思う。女だから仕方ない、諦めようとした時もあったけれど……男性同士の友情というのは女同士のそれとは違うわね。なぜ殿方同士はあんなにも近い距離でつきあえるのかしら。永遠の謎ね。それとも…」

鈍感ということかしら
そう言って朔羅は諦観と寂しさを表した表情をする。笑師はなんと答えるべきか、それとも慰めるべきなのかとまごまごしている。

「だからいつも置いてけぼりにされる私は゛許す゛しかなかったわ。何処かに出掛けいってしまう皆を笑って、見送って、待って、お帰りなさいと出迎える。傷の手当てをして、洗濯物をして、悩みがあるようなら慰めて、包みこむように許容する。何も求めず、あらだてず、受け止めるだけ、己のことよりまず他人のことを。それが私の立ち位置」


「――それでもね、笑師」

 朔羅はにっこりと笑師に笑いかける




「私は貴方の前だけは、我が儘も言いたい」




 目を閉じて、そっと顎を前に突き出す。
 笑師は、頬を朱に染め、ぎくしゃくした動きでそっと唇を寄せた。